Xユーザーのami(2024)氏の2024年9月7日投稿の転載動画(図1)がめちゃくちゃバズっている。10月17日時点で473万回以上再生、1.9万いいねされている。具体的な撮影場所は不明だが、どこかの駅のホームで撮影されているようだ。動画内では球電現象(Ball lightning)が撮影されているという。まるでピカチュウのボルテッカーのような感じである。様々なファクトチェック団体によってこの球電映像はCGだという結論で一致している(AFP Indonesia 2021; Dan Evon 2020; 古田大輔 2024 )。当該コミュニティーノート(第三者による補足情報)にもリンクがある。
クリックするとYoutubeへと飛ばされた。投稿主はポーランドで活動するアンドレイ・トゥルホノヴェツ氏である。動画説明欄のところに無断転載を禁止している。この球電映像はベラルーシで撮影後、2019年5月27日にYoutubeに投稿されたという(Dan Evon 2020)。CG初心者の頃に試しに制作してみたという。余談だが2020年7月27日にUFO/UAPのCG映像も作成している。アンドレイ・トルホノベッツ氏はコメント欄にこの球電現象の映像を信じる視聴者が多いことに驚いているという。投稿主がフェイクだと分かるだろうと判断したとしても視聴者の受け取り方は千差万別である。すでに解明された映像であるにも関わらず何度も話題になる点も興味深い。投稿主の高度なCG技術だったことも拡散に影響を与えたのかもしれない
藤吉康志と南雲信宏(2007)は「球雷とは,空中を発光体が浮遊するという自然現象.あるいはその発光体のことをいう.」と述べており、札幌の自宅で球電を目撃している。また球電のメカニズムが少しずつ解明され始めている。稀に空気と光の相互作用によって球電が安定しながら浮遊する可能性があるという(V.P. Torchigin 2019)。薄い空気の膜に閉じ込められた光というイメージである。地震と発光体の関連性についても言及されている(木下修一ら 2015, 314)。発光体は稀に地震の時に発生する場合もあり、白色や青色など色味だったり球電状などが空中浮遊しているのが確認されているという。河野聡(2024)はUFO/UAPの正体の一部は球電仮説で説明できると考えている。今回の球電はCGだと判明したが、現象そのものは事実としてあり、未解明な部分もある。今後の調査研究にも期待したい。参考文献
AFP Indonesia. 2021. This is a CGI video of a 'lightning ball' crossing railway tracks. AFP Fact Check. 最終閲覧日2024年10月17日
ami, @amisweetheart. 2024. これは "Ball lightning" という、雷などの強い電気エネルギーが球状に固って帯電したまま大気中を浮遊する物理現象だそうです。もしこれを見ちゃったら🔥幽霊とか人魂を見っちゃったと思うでしょうね⁉️😭. X. https://x.com/amisweetheart/status/1832250734945169884. 最終閲覧日2024年10月17日
Dan Evon. 2020. Is This Video of a 'Globular Bolt' Real?. https://www.snopes.com/fact-check/video-of-a-globular-bolt-real/?ref=factcheckcenter.jp. Snopes. 最終閲覧日2024年10月17日
V.P. Torchigin. 2019. Ball lightning as a bubble of light: Existence and stability. Optik Volume 193, September. https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0030402619308381?via%3Dihub. 最終閲覧日2024年10月27日
河野聡. 2024. UFOは球電か?. 産業応用工学会全国大会講演論文集. pp.104-105.
古田大輔. 2024. Ball lightning(球電) という電気エネルギーが浮遊? 実際はCGを用いた映像【ファクトチェック】. https://www.factcheckcenter.jp/fact-check/culture/false-ball-lightning-cg-phenomenon/.日本ファクトチェックセンター. 最終閲覧日2024年10月17日
藤吉康志,南雲信宏. 2007. 球雷の目撃報告.天気(54),pp.91-92.
木下修一, 太田信廣, 永井健治, 南不二雄【編】. 2015. 発光の事典 基礎からイメージングまで. 朝倉書店.
科学否定論者との信頼関係構築の重要性
心を揺さぶる本に出会った。2024年5月25日に発行された『エビデンスを嫌う人たち 科学否定論者は何を考え、どう説得できるのか?』(国書刊行会)である。著者は哲学学者リー・マッキンタイア氏である。現在はボストン大学研究員として働いている。西尾義人氏の翻訳も非常に読みやすい。私自身、英語翻訳本を読むのには体力を使うタイプだが、本書では文字が頭にすんなりと入ってきて、苦ではなかった。本書は簡潔に述べるならば科学否定論者との適切な向き合い方について模索している。
事例として地球平面説(フラットアース)などを挙げている。地球が球体なのは科学的に事実である。しかしながら科学技術が発達しているにも関わらずアメリカには地球平面説を信じている人が一定数存在している。第1章でリー・マッキンタイア氏は筋金入りの地球平面説主張者が集う会議に潜入している。ハラハラドキドキしながら読み進むことができた。他にも気候変動否定者、反ワクチン主義者、コロナ否定論者、オーガニック食品否定者などの事例や先行研究を通して科学否定論者の考え方を探ろうとしている。
科学否定論者の特徴は5つの類型があるという。①都合の悪い証拠(情報)から目を逸らす。②陰謀論にハマりやすい。③自称専門家を信頼し過ぎる。④非論理的な考えになりやすい。⑤科学は絶対に正しいという誤解。以上5つは私なりに咀嚼して言い換えている。そして科学否定論者の意見を無視したり、馬鹿にしたような態度はNGである。科学否定論者となった背景も複雑だが、共感や傾聴、敬意などによる信頼関係構築こそ科学否定論者からの脱却として有効だという。第2章「科学否定とはなにか?」と第3章「どうすれば相手の意見を変えられるのか?」や名古屋学院大学専任講師の横路佳幸博士(哲学)の解説「対立から対話へ――科学否定論者とのよりよい向き合い方」が詳しい。
先行研究を踏まえリー・マッキンタイア氏は科学否定論者を科学肯定論者へと転向させようと試みているが、残念ながら科学否定論者を転向させることはできなかったようで、長期的な信頼関係構築が必要だとしている。本書は極端な超常現象信奉者との対話でも有効な手段になるだろう。共感・傾聴・敬意を忘れずに調査研究に励みたい。
思念体?歩行者用信号機が生み出した偶然の産物
2024年9月3日18時11分に投稿されたポストが話題になっている(後 2024a)。9月4日時点で25万いいね、3.1万リポストされている。写真は2023年にXユーザーの後降裏夫氏が車内の助手席に座っている時に撮影されたという(後 2024b; 後 2024c)。見えてはいけない思念体ではないかと一瞬思ったそうだが、車のガラスに後ろの歩行者信号が反射していただけと判明した(後 2024d; 後 2024e)。
ガラス越しに撮影された写真が超常的だと解釈されることは珍しくない(たとえば佐藤 2020)。インターネット上で超常的な写真に遭遇しても今回のようなケースを思い出してほしい。
参考文献
後, 降裏夫. 2024a. 「屋上にやべー思念体みたいなのがおる!!」と思って大興奮で写真撮ったら歩行者用の信号が反射してるだけやった。動かへんなあとは思っててん。. https://x.com/ato_orio/status/1830715184916373872. X. 閲覧日2024年9月4日
後, 降裏夫. 2024b. 去年なんですけど、よう撮れたなと思います😳. https://x.com/ato_orio/status/1830957234932851031. X. 閲覧日2024年9月4日
後, 降裏夫. 2024c. 反対側の歩行者用の信号が乗ってた車の窓ガラスに映ってブロッケンみたいに自分の影ではないようです。中々貴重な体験でした😳. https://x.com/ato_orio/status/1830944542205624719. X. 閲覧日2024年9月4日
後, 降裏夫. 2024d. 奇跡の瞬間でしたね🤣助手席でよかった😆. https://x.com/ato_orio/status/1830735446353289346. X. 閲覧日2024年9月4日
後, 降裏夫. 2024e. 後ろの信号が車の窓ガラスに映ってたんですね。. https://x.com/ato_orio/status/1830901222351740995. X. 閲覧日2024年9月4日
佐藤, 順子. 2020.ガラス窓に映る我が家の天井の照明器具がめっちゃUFOで、ビビった🛸. https://x.com/junk414/status/1247860072253775872. X. 閲覧日2024年9月4日