Nightfall

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【妖怪学】小松和彦『妖怪学新考 妖怪からみる日本人の心』の解題

小松和彦『妖怪学新考 妖怪からみる日本人の心』(講談社・2015年)の解題

柳田國男*1井上円了*2の「妖怪学」の研究史や成果をはじめ、小松和彦自身の研究成果*3、「妖怪学」の総論・各論の整理や課題の検討、「妖怪学」の意義・明確化、小松の提唱する「妖怪学新考」へと展開されており、日本人の精神構造探ることを目的とした本書。全体として、小松自身の論考集『憑霊信仰論』*4や『異人論 民俗社会の心性』*5、『悪霊論 異界からのメッセージ』*6では深く論じられなかった「妖怪」を広義的に整理した内容となっている。
  従来、妖怪を研究する学問は「妖怪学」と呼称されていたが、範囲・目的・方法は不明確だった。柳田も「妖怪学」を研究していたが、あくまでも「民俗学」の範囲として扱っており、井上円了の「妖怪学」は「妖怪撲滅(迷信打破)」*7という名目で「妖怪」が研究されていた。小松が唱える新しい「妖怪学」の定義とは「人間が想像(創造)した妖怪、つまり文化現象としての妖怪を研究する学問」*8だという。また妖怪学は「妖怪文化学」であり、妖怪を通じて人間の理解を深める「人間学」でもあるとも述べている。さらに研究領域の全分野*9を一人で研究するのではなく、諸分野で判明した研究成果を「共有し、総合する場」として「妖怪学」の必要性を主張した。そして妖怪文化の考察を通じて、人間の精神の歴史や心のあり方を探る学問としてとし、「妖怪学新考」という学術用語を提案している。小松の成果はこれまで不確立だった「妖怪学」を「妖怪学新考」と名付け、確立しようと試みたことである。しかしながらこの「妖怪学新考」が支持されるかどうかはまた別問題である。
  現状、「妖怪学」の確立は非常に困難だという。小松自身も「妖怪学新考」は不十分だと認識しており、科学的な妖怪研究者からの反論が来る可能性が高いだろう。小松は『異人論 民俗社会の心性』でも言及していた「都市伝説」や、常光徹の「学校の怪談」について論じており、現代の怪談・妖怪譚について考察している。また中学一年生の時に「幽霊屋敷」*10に住んでいたことがあるという体験から、現代の妖怪・怪談について考察を試みている。小松は現代になり幽霊・妖怪話が衰退しているが、都市空間の僅かな「闇」の中で変化しながら存在し続けており、また幽霊を信じている人が一定数存在していることから、幽霊(妖怪)は消滅しないと考察をしている。

参考文献&注

*1:1875年生-1962年没。民俗学創始者

*2:1858年生- 1919年没。現在の東洋大学創始者。妖怪博士とも呼ばれていた。

*3:「異人」「異界」「憑霊」「妖怪」など。

*4:1994年、講談社

*5:1995年、筑摩書房

*6:1997年、筑摩書房

*7:井上は偽りの妖怪(勘違いや自然現象など)を打破していくことで、いつか本物の妖怪(真怪)に出会えることを目指していたのだという。→飯倉義之「井上円了江馬務」(『日本の妖怪』小松和彦編著者、2009、ナツメ社、pp227-228)を参考。

*8:解題本p.11より引用。

*9:民俗学社会学・人文学・科学など。

*10:解題本pp182-183に詳細あり。