Nightfall

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【貨幣殺し】小松和彦「異人殺しの伝説の歴史と意味 歴史社会の民俗創造」(『悪霊論 異界からのメッセージ』)の解題

小松和彦「異人殺しの伝説の歴史と意味 歴史社会の民俗創造」(『悪霊論 異界からのメッセージ』pp.41-77、筑摩書房、1997年)の解題

小松和彦*1自身も述べているが自身の著者『異人論 民俗社会の心性』をさらに発展させた内容となっている本書。厳密にいえば、『異人論』以降に加筆・修正された「村はちぶ」や「天皇制と悪霊」「妖怪の伝承学」に関する論考・エッセイが収録されている。
  本書に収録されている論考「異人殺しの伝説の歴史と意味 歴史社会の民俗創造」(pp.41-77)は「異人殺し」伝説で登場するシャーマンの託宣(霊の口寄せ)による、「悪霊語り」をベースに考察が展開されている。村落共同体で「異変」が起こった場合、シャーマンが託宣を行い、シャーマン(に憑依した霊)の口から語られることにより、「異変」の原因が明らかとなる。事例(託宣のテキスト(物語)=霊の証言)を分析した小松は「異人殺し」伝説を「貨幣殺し」すなわち村落共同体の均衡維持=長者を殺害したいという願望や外部の世界への不安の表れであると結論付けた。しかしながら結果として、村落共同体は貨幣を排除しようとしたが、貨幣により村落共同体が崩壊したのだと考察している*2
  小松は従来、民俗学では貨幣が論じられてこなかった点を問題視しており、(貨幣だけではなく)様々な角度からのアプローチが必要であることを指摘している。また都市化の進行により、村落共同体の解体(村落共同体内部と外部の融合)が進み異人が消滅することも懸念している。

参考文献&注

*1:東京都立大学大学院(社会人類学)博士課程修了。現在は国際日本文化研究センター所長。

*2:小松は「旧来の村落共同体はそれを維持しようという努力にもかかわらず、貨幣のためにほとんど解体されてしまったのだ。〝貨幣殺し〟を実現して旧来の閉鎖的な村落共同体を守り続けることができず、逆に貨幣経済のために村落共同体は押しつぶされてしまったのであった。」と述べている。→解題本p.74より引用