Nightfall

オカルト懐疑論。超常現象を調べたり、文献レビューしたり、オカルトニュースを紹介したり。

【零落説】小松和彦『憑霊信仰論』の解題

小松和彦 『憑霊信仰論』(1994年•講談社)の解題
  犬神憑き・座敷童子・山姥・護法・付喪神に関する論考が9篇収録されており、日本人(民衆)の精神構造(心性)を明らかにすることを目的として書かれた。元々は1982(昭和52)年に伝統と現代社で刊行された同題の論文集に、新たに2篇の論文(「熊野の本地――呪詛の構造的意味」「器物の妖怪――付喪神をめぐって」)を追加したものである。柳田國男*1は、座敷童子や枕返は祖先神などが零落した姿(零落説*2)であると提唱していた。零落説とは、妖怪は神から零落した姿という説である。
  本書において小松和彦*3は柳田の零落説を、高知県物部村で採集した昔話「山姥」の事例を通して、神から妖怪へ零落するだけではなく、妖怪から神へと神格化することもあると否定した。小松は柳田の研究成果について再検討・再考察や、地域性を重視した山姥研究の必要性*4 も説いてる。本書で小松は「憑霊現象」の考察を通して、新たな課題と出会うことになる。それが「異人殺し」伝説である。この伝説をテーマとした論文が『異人論 民俗社会の心性』に収録されている「異人殺しのフォークロア」であり、『悪霊論 異界からのメッセージ』ではシャーマンの託宣(「悪霊語り」)に着目し、議論が展開されている。

参考文献&注

*1:1875生-1962没。民俗学創始者

*2:柳田国男監修『民俗学辞典』東京堂出版、1951=1976年、p.654を参照。

*3:東京都立大学大学院(社会人類学)博士課程修了。現在は国際日本文化研究センター所長。

*4:「私の関心は多様展開を示す全国の山の神を一つの山の神像にまとめ上げることにあるのではなく、特定の地域で伝承されている〈山姥〉をその民俗社会のなかで、生きている状態のなかで考察することにある。」→解題本p.308より引用。