犬神憑き・座敷童子・山姥・護法・付喪神に関する論考が9篇収録されており、日本人(民衆)の精神構造(心性)を明らかにすることを目的として書かれた。元々は1982(昭和52)年に伝統と現代社で刊行された同題の論文集に、新たに2篇の論文(「熊野の本地――呪詛の構造的意味」「器物の妖怪――付喪神をめぐって」)を追加したものである。柳田國男*1は、座敷童子や枕返は祖先神などが零落した姿(零落説*2)であると提唱していた。零落説とは、妖怪は神から零落した姿という説である。
本書において小松和彦*3は柳田の零落説を、高知県物部村で採集した昔話「山姥」の事例を通して、神から妖怪へ零落するだけではなく、妖怪から神へと神格化することもあると否定した。小松は柳田の研究成果について再検討・再考察や、地域性を重視した山姥研究の必要性*4 も説いてる。本書で小松は「憑霊現象」の考察を通して、新たな課題と出会うことになる。それが「異人殺し」伝説である。この伝説をテーマとした論文が『異人論 民俗社会の心性』に収録されている「異人殺しのフォークロア」であり、『悪霊論 異界からのメッセージ』ではシャーマンの託宣(「悪霊語り」)に着目し、議論が展開されている。
参考文献&注